王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
私、当たって砕けます!
「……連絡はない、か」

 彼の工房を訪ねなくなって数週間。
 以前より頻繁に携帯を見ては檜山からの着信がないかを確認し、そのたびに落ち込んでしまう。 

「怒ってるよね……」

 檜山は、晴恵のことを靴を作ってもらうためにはなんでもする女だと思っているに違いない。

 注文を無効にされるだろうか。
 真摯に靴作りに取り組む姿を思い出し、慌てて否定する。

「私を軽蔑してても、あんなに履く人のことを思って作っているのに、反故にするなんてありえない」

 靴を受け取って、代金を支払えば檜山との縁はなくなる。
 二度と彼と一緒の空間に居られないことが悲しい。
 寂しい。
 苦しい。
 でも、あと一回だけ檜山に会える。

「……好きって言っちゃおうかな」

 注文者に惚れられるなど檜山にとっては気分がいいことではないだろうが、晴恵は玉砕して楽になってしまいたい。

「私、全然檜山さんのことを気遣ってない」

 こんなにも自己中心的だったのだと、嗤ってしまう。
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