王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
「要求していないのに、出張費はファーストクラスで滞在場所は一流ホテルのスウィートだ」

 交通費や宿泊費用かける日数を自分の貯金残高から引き算してマイナスになったので、晴恵は暗澹たる気持ちになった。

「『城や王女をやるから専属になってくれ』と言ってくる王族もいる」

 それは確かに無理だ。
 晴恵はダメもとで、檜山へのルートを聞いてみた。

「そういう方達は、どうやって檜山さんをみつけて注文されるんですか」
「大抵は顧客つながり。断っても増える一方だ」

 日本の由緒正しい庶民である晴恵はコネもカネもない。

「お忙しいのも、セレブばかりの顧客なのもわかりました。でも……!」

 晴恵の泣きそうな声にただならぬものを感じたのだろうか、檜山は揶揄(からか)うように言った。

「じゃあさ、俺を惚れさせてみなよ」
「……はい?」

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。
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