王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
 男の腕が晴恵の腰をしっかり抱いた。
 何度か晴恵の唇を啄むと、檜山はようやくメインの陽菜の靴に言及した。

「妹にも何回か履いて慣らしておくように言っておけ」

 檜山があごでしゃくったさきには白い化粧箱が置かれている。
 ロゴも印刷されてない、そっけないものだ。箱には手書きで制作年数が書かれているのみ。
 中を見ていいかと訊ね、諾を得たので箱の蓋を開けた。

「菜の花……!」

 ウエッジソールという厚底な靴は、ハイヒールが苦手なこと女性でも履きやすい上に歩きやすい。
 足を綺麗に魅せ、足を長く見せる効果があるで。
 オープントゥで、妹がペディキュアをして履いたところを想像した。
 さらに足裏全体で地面を捉えるために、疲れにくい。
 ソールには外反母趾や土踏まずを正常な形にするよう、うねっている。

 踵はがっちりとホールドされている。
 ごつい印象にならないのは、色と菜の花のモチーフだろう。
 アシンメトリーに取り付けられている。

 足の甲の部分は幅広に作られていて、しかもマジックテープなので細やかな補正が可能だ。

「早速、渡しに行くわ」
「だめだ、妹に取りにこさせろ」
「でも」

 陽菜を檜山に会わせるのは嫌だ。
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