王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
「アンタは妹の結婚式までここに泊まる」
まじまじと見れば、檜山が晴恵を真剣に見ている。
「晴恵が足りない」
彼ははっきりと告げた。
嬉しい。
どんな顔をしていいかわからない。
「毎日押しかけてきて、あんなに声高に存在を主張しておいて」
そんなにうるさかったろうか。
なるべく気配を殺していたのに。
「ぱったり来なくなって、仕事にならない。アンタはなんて性悪なんだ」
忌々しそうに呟かれた。不安になって檜山の双眸を見れば、愉快そうな光が瞳に踊っている。
「別に、『押してもダメなら引いてみろ』をしたわけではなくて」
ごにょごにょ言い訳すれば、鼻先をかじられた。
「ふがっ!」
「ちょうどいい。妹を、あの猫っ可愛がり亭主に送らせがてら、アンタの荷物を持ってくるように伝えとけ」
「私、まだ泊まるって言ってないんですけど?」
断るつもりもないくせに言ってみた。
すると、檜山が立ち上がると晴恵を抱き寄せた。
「俺に抱かれたってことは……もう、あの亭主に未練はないんだろう?」
男の、不安が滲むような双眸に晴恵は花が綻んだように笑いかけた。
「私ね。今は足音だけで私が来たって聞きつける、どこかの靴屋さんしか見えてないの」
二人はキスを交わしながら、工房の二階にある檜山の寝室へと向かった。