王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
「っ、それはそうだけど。でもお姉ちゃんには、こんな傍若無人な人よりもっといい人がいるんだから!」

「私は檜山さんがいいの」

 晴恵が宣言すれば、檜山が彼女の頭に愛おしげに頬擦りする。
 晴恵も自分の体に巻きついている男の腕に手を添えた。

「……婚約前に同棲なんて、ふしだらなんだから。お母さんだっていい顔しないわ。着替えなんて持ってこなかった。だから、お姉ちゃんは私と一緒に帰るの!」

 勝ち誇った陽菜に檜山はニッと唇の端を上げてみせた。

「そりゃ、好都合」

 檜山が陽菜を煽った。

「俺が嫁を連れていくのを待ち構えてるブランドは一つや二つじゃないからな」

「っ、檜山さんの馬鹿ぁ!」

 頃合いと見たのだろう、檜山はしっしとばかりに手を振り、フリッツは自分の恋人の腰に手を添えて歩きだす。

「では晴恵、檜山さん。結婚式で会いましょう」
「ああ。フリッツ、妹の手綱をしっかり握っておけ」
「勿論」

 やがて、陽菜がくすんくすんと拗ねているのをフリッツが宥める声も遠くなって、晴恵と檜山の周囲は静寂につつまれた。

「台風一過だな」
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