王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
 ふう、と檜山が息を吐く。

「……あの」
「うん?」
「陽菜が寝てた日、なにがあったの」
「ああ」

 陽菜が工房にいきなり乗りこんできて。

『姉には貴方より相応しい人がいる』
『私の靴を作ってくれるよう頼んでるだけで、姉があなたに好意を持ってるなんて勘違いしないでほしい』

 まくしたてたという。

「あいつ、採寸のときから自分と晴恵には姉妹の絆があるとか散々マウントとってきたしな」

 そうだったろうか。
 二人の姿に嫉妬しまくり、聞いていなかった。

「で、檜山さんはなんて」
「智恭」
「……智恭さんは」
「智恭」
「…………智恭はなんて言ったの」

『ガキ。結婚決まった女が、いつまでも姉貴のスカートにしがみついてるんじゃねえよ』

 檜山、智恭がばっさりと一刀両断すれば、陽菜は血相を変えた。

『あんたなんかになにがわかるのよ!』

『わかるさ。晴恵が一生懸命妹の幸せを願ってて、俺の作業を宝物が生み出される瞬間に立ち会ってるみたいなキラキラした顔してるのは』

『だったら!』

『勘違いするな。妹が幸せだとしても、それはアイツ個人の幸せじゃない』
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