絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
そっけなく彼は言った。なんでもないことのように。怪我人に対していう言葉じゃないし、わざわざ捨て台詞を吐く必要なんてないのに。
人命救助のために医師がいるのではないの?
人として保育士として、園児に何もなかったことを喜んではいけないの?
そんなわけで、彼の第一印象は超最悪だったのだ。
その冷徹な外科医が、今、自分のお見合い相手として目の前にいるとは――なんて皮肉のきいた奇跡なのだろう。
「――とりあえず、座ったらどうだ。突っ立ったまま、変に思われるぞ」
戦意喪失したらしい彼だが、それでも冷静さは失っていないようだ。
「……」
こちらは晴天の霹靂に見舞われ、まったく食事をする気分ではないのだけれど。さすがにこのままさよならというわけにはいかないだろう。周りの客の視線をなんとなく感じて、美澄は渋々だが着席する。
フルコースを予約してくれていたらしい。けれど、お互いに躊躇ってしまい、乾杯をするわけでもなく談笑するわけでもないので、果たして最後のデザートが運ばれてくるまで、この空気に耐えられるかわからない。
何を話せばいいというのか――。
迷った末、美澄はとりあえず状況を整理することにした。
「東雲先生は、英八重さんとはどういうご関係ですか? 実のところ私、何も聞かされていないんです」
「俺の父親と繋がりがあるんだ。二人は古くからの幼なじみらしい」
「そうなんですね」
院長の幼なじみということは……一体、八重は何歳なのだろうという疑問がまた沸いてしまった。年齢不詳な上に、顔が広いというか……とりあえず今はそんなことよりも、この事態を収束しなければならない。
「お互いに気にいらない相手のようですし、この縁談はなかったことにしませんか? 今夜の食事は……八重さんのご厚意に甘えることにしますが、これっきりということで。それでいいですよね?」
まくしたてるように美澄は言った。
しかし彼の方からは意外な答えが返ってくる。
「俺は君を気にいらないとは言っていない」
彼が引き止めるようなことを言うので、意表を突かれた美澄の顔は赤くなっていった。
(なによそれ。どういう意味なの)
彼はまっすぐに美澄を見ている。真正面から改めて捉えた彼の顔立ちは、いやみなほど整っていて、文句のつけどころがない。
人命救助のために医師がいるのではないの?
人として保育士として、園児に何もなかったことを喜んではいけないの?
そんなわけで、彼の第一印象は超最悪だったのだ。
その冷徹な外科医が、今、自分のお見合い相手として目の前にいるとは――なんて皮肉のきいた奇跡なのだろう。
「――とりあえず、座ったらどうだ。突っ立ったまま、変に思われるぞ」
戦意喪失したらしい彼だが、それでも冷静さは失っていないようだ。
「……」
こちらは晴天の霹靂に見舞われ、まったく食事をする気分ではないのだけれど。さすがにこのままさよならというわけにはいかないだろう。周りの客の視線をなんとなく感じて、美澄は渋々だが着席する。
フルコースを予約してくれていたらしい。けれど、お互いに躊躇ってしまい、乾杯をするわけでもなく談笑するわけでもないので、果たして最後のデザートが運ばれてくるまで、この空気に耐えられるかわからない。
何を話せばいいというのか――。
迷った末、美澄はとりあえず状況を整理することにした。
「東雲先生は、英八重さんとはどういうご関係ですか? 実のところ私、何も聞かされていないんです」
「俺の父親と繋がりがあるんだ。二人は古くからの幼なじみらしい」
「そうなんですね」
院長の幼なじみということは……一体、八重は何歳なのだろうという疑問がまた沸いてしまった。年齢不詳な上に、顔が広いというか……とりあえず今はそんなことよりも、この事態を収束しなければならない。
「お互いに気にいらない相手のようですし、この縁談はなかったことにしませんか? 今夜の食事は……八重さんのご厚意に甘えることにしますが、これっきりということで。それでいいですよね?」
まくしたてるように美澄は言った。
しかし彼の方からは意外な答えが返ってくる。
「俺は君を気にいらないとは言っていない」
彼が引き止めるようなことを言うので、意表を突かれた美澄の顔は赤くなっていった。
(なによそれ。どういう意味なの)
彼はまっすぐに美澄を見ている。真正面から改めて捉えた彼の顔立ちは、いやみなほど整っていて、文句のつけどころがない。