今夜、私は惑わされる。
「どうして、からまれてたんだ?」
信号の色が赤になった時、彼が口を開いた。
「……道を聞こうと思ったんです」
「ふーん」
バイクが再び、走り出す。
バイクなんて今まで一回も乗ったことがない。
彼に回している手を離したら、一瞬で落ちてしまいそう。
「……ちょっと苦しいんだけど」
「あっ、すみません……」
無意識に強い力で抱きついていたようだ。
「もう、あそこには行くな」
「え……?」
「あそこは“闇の街”って呼ばれてる。お前が知らないような悪いことをする奴らが沢山いる」
改めて、行ってはいけないところに行ったんだなと実感する。
「お前じゃなくても、女が行ったら一瞬で巻き込まれる。あそこはそれくらい危険な場所なんだ」
彼の瞳に街の夜景が反射してうつる。
切ないような、そんな瞳をしているように見えるのは気のせいだろうか……?
バイクが私の家のすぐ側に止まる。
「着いたぞ」
ヘルメットを頭から外し、彼に渡す。
「ありがとうございました」
「これから気をつけるんだぞ」
頭をくしゃくしゃと撫でられる。
そして、バイクで走り出そうとする。
「あの!!」
気づいたら口から声が出ていた。
これっきりなんて、絶対嫌だ……。
「名前は……なんて言うんですか?」
だって、彼は助けてくれた時から
「……“闇の王子”」
私の王子様だったから。
彼はバイクに乗って、まるで闇を切り裂くように走っていった。
また……会えたらいいのに。
夜空は星々で光り輝いていた。