ライム〜あの日の先へ
動き出した時間
目に映る世界の色が消えた。


ダイニングテーブルの下には父親。
その父親の体の上に重なるように倒れた母親の体はピクリともしない。


モノクロの版画でも見ているようだった。


自分の体は動かない。
思考も停止してしまって何が起きたのか理解できない。
キィンと甲高い耳鳴りがして、時間も止まったようだ。


父の低いうめき声と妹の鈴子(すずこ)の泣き声が響く部屋で、一成(いっせい)は呆然と立っていた。


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