ライム〜あの日の先へ
でも、話をするどころか会うことさえできない。

せめて、電話してみようか。出てくれるかはわからないけれど。
鈴子はバックのなかからスマホを取り出した。

零次の名前を呼び出して、通話ボタンを見つめた。

ーー会って、相談したいことがあるの。

それだけ。それだけの電話が、かけられない。

スマホケースに付けた鈴が、太陽の光に反射してキラリと光る。軽く振ればチリンと軽やかな音色が響いた。

零次とおそろいの鈴を見ていると、零次の笑顔を思い出す。

ーーだめだ。やっぱり、知らせない。
余計な厄介ごとを増やしちゃダメだ。

鈴子はバックのポケットにスマホをしまい、立ち上がる。
そしてビルに背を向け、歩き出そうとした。

だが何かに足を取られてよろけ、とっさに近くのビルの壁に手をつく。
しかも衝撃でバックのポケットに入れていたスマホが、チリンと音を立てて地面に落ちた。

なんだったのだろうと足元をみる。

そこには真夏の熱いコンクリートの上で溶けたキャンディ。どうやらこれを踏んでしまった。


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