ライム〜あの日の先へ
「ご不在中にかかってきた電話のリストです。それと、受付から一件、不審な人物の訪問があったと」

社長室に戻ると、秘書が書類を手にやってきた。

「不審な人物?」
「はい。『望田』と名乗る若い女性で。ロサンゼルスで社長にお世話になったと。連絡先も残さずに帰ったとのことですが」
「望田?若い女性?」

ーーまさか、鈴子が来たのか?

いや、そんなはずはない。今頃ロサンゼルスで就活に励んでいるはず。それとも、なにか用事で日本に戻ってきているのか?


零次は無意識にポケットに触れる。
鈴子のことを考える時はいつもポケットの中のキーケースに触れる。涼やかな鈴の音を聞けば、鈴子がそばにいてくれるような気がして安心できた。

今もポケットの中で鈴がチリン、と鳴ったが違和感がある。
ポケットから取り出せば、キーケースにはきちんと鈴がついている。

それなら、さっき拾った鈴は?
ポケットを漁れば、紐が千切れた鈴が出てきた。紐の色も、鈴の形も色も零次の持っている鈴と同じだ。

もしかしたら、鈴子が落としていったのか?やっぱり、鈴子がここへ来たのか?

「わかった、ありがとう」

このあとは溜まったデスクワークをするつもりだった。だが、もし来てくれたのが鈴子なら、連絡して夕食でも一緒に食べながら話でもしたい。

零次は、登録してあった鈴子の番号に電話する。
だが、電源が入っていないとのメッセージ。

ならば、一成に電話してみよう。


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