ライム〜あの日の先へ
あれから何度か電話を掛けてみたが、結局鈴子とは繋がらなかった。

ーー遊びに来ただけなのだろうか。それとも、何か相談でもしたかったのだろうか。

鈴子に会いたい。あの笑顔があれば苦しい今を乗り越える力になる。
でも、今の俺に必要なのは癒やしではなく、力だ。会社の危機を乗り越えるための知識と判断力と決断力。

一成の言う通り、もう関わらないほうがいいのだろう。幸せで楽しかった思い出に逃げたくなってしまう。仕事に邁進するしかないというのに。


会社は背水の陣だ。なりふり構っていられないほど切迫している。


ーー鈴子。今の俺じゃ君に会えない。
君に甘えて、弱くなってしまいそうだから。
俺は俺にしか出来ない方法で、君を守るよ。

どうか、幸せでいてほしい。

そしていつか立派になったら、君に会いたい。


零次は、ポケットから鈴を取り出した。
鈴子が落としたと思われる鈴も千切れた紐を直して、一緒にキーケースに取り付けた。
2つ並んだ鈴は、チリン、チリンと澄んだ可愛らしい音を重ねる。
疲弊した零次の心を癒やす最高の音色だ。


ーーいつか、この落とし物を渡しに行く。どこにいたって探してみせるから。
一言、頑張ったねと笑顔で言ってほしい。
そして、俺の隣にいてほしい。
もう一度、今度は終わりのない永遠の恋をしよう。

鈴子。

俺は君を愛してる。






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