ライム〜あの日の先へ
自宅に帰ると、零次はポケットからキーケースを取り出した。
ケースから自宅の鍵を取り出すと、チリンと涼やかな鈴の音がする。
手の中のキーケースを見つめた。
金メッキが剥がれた同じ鈴が2つ。触れれば涼やかな可愛い音をたてる。
ーーRing a bell.
この鈴の音を聞いたら、私を思い出して。
別れたあの日。鈴子はこの鈴を一つくれた。
もう一つの鈴は、鈴子が零次を訪ねて日本に来てくれた時に落として行ったものだ。
そっと指先で触れると、鈴はチリンといつもの音を鳴らす。
予想もしていなかった再会だった。
喘息持ちの子供を抱えて、それでも仕事を頑張る鈴子。
そんな彼女に愛されて、子供まで。
相手はどんな男なのだろう。
鈴子は幸せなのだろうか。
鈴子。
君が他の誰かのものになっているなんて、考えもしていなかった自分が愚かだ。
時間は変化をもたらし、残酷なまでに過ぎていくもの。
それなのに俺の中では君は別れたあの日のまま。俺のことを好きだと言ってくれたあの頃のままで止まっていた。
零次は仲良く並んだ二つの鈴を見つめる。押し寄せる後悔の波で息もできないほどに苦しかった。