ライム〜あの日の先へ
「望田さん」

物思いにふけっていた鈴子は、呼びかけに驚いて顔をあげる。
先ほど病院のエントランスで見た男性医師がそこにいた。

「本日は念の為に入院していただきますね。
今、病棟にご案内します。主治医の二葉先生もすぐにいらっしゃいますから」

「助かりました。診療時間外にすみませんでした」
「いえいえ。こちらこそ、いつもハルトが大変お世話になっているそうで。ありがとうございます」

やっぱり、この医師はハルトの関係者なのだろう。

「あの、先生はハルトくんの……?」

尋ねようとした鈴子の声は、背後からやってきた看護師の声にかき消された。

「水上先生!救急車の受け入れ要請です!」
「すぐ行きます!すみません、望田さん。あとは二葉先生に引き継ぎますので。お大事になさって下さい」
「ありがとうございました」


かろうじて御礼の言葉しか言えなかった。水上医師は穏やかな優しい微笑みを残して、小走りで立ち去っていく。


「望田さん、入院病棟の準備が出来ましたのでご案内しますね」

鈴子の方にも声がかかる。
ぼんやりしていられない。入院となれば手続きやら支度やら、鈴子ひとりでこなさなければならないのだ。




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