ライム〜あの日の先へ
そう自分に言い聞かせていると、ポケットに入れていたスマホが震えた。一成からメールが届いている。心配性の兄が毎日送ってくる、何事もなかったかと確認のメールだ。

喘息発作で入院した旨の連絡をすると、なるべく早く帰ると返事が来た。それだけで、ちょっとホッとする。凜のために強いお母さんになると頑張っていても、つい兄に頼りたくなる。

ーーやっぱり一人は色々しんどい。

心が弱ってしまってつい、零次のことを考えてしまう。

ーー憧れの女性と結婚して、可愛い子供にも恵まれて、あんな立派な外車に乗って、チラッとしか見なかったけど社長らしい威厳だってあった。


神様は意地悪だ。

あんな零次の姿は見たくなかった。
別れたときの気持ちに嘘はない。それでも一条琴羽と幸せに暮らしている姿なんて見たくなかった。
もう二度と鈴子の手の届かないところに行ってしまったことを思い知った。

だからこそ、絶対に凛のことは言えない。
憧れだった女性と築いた零次の家庭を、揺るがすことにはなりたくない。


よく眠る凛の顔を見つめる。
女の子は父親に似るというが、凛の寝顔は本当に零次そのものだ。


零次とのことは終わったこと。いくら悩んでも、しかたのないこと。
彼は一条琴羽とハルトと幸せに暮らしているのだ。
もう、零次のことを思い出すのはやめよう。考えたところでどうにもならない。
彼への想いはとっくに凍らせて、心の奥に飾っているだけ。


今の鈴子には凜がいる。凜が人生のすべてなのだから……。



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