ライム〜あの日の先へ
穏やかな午後の日差しが差し込むデイルームの、空いていたソファに座り込む。

窓の外には木々の緑と整えられた庭園が見えた。だが、次第にそれがぼやけてくる。
鈴子の頭の中は、先程見た凛の満面の笑みと発した言葉でいっぱいだった。

『パパ!』

あの子があんなふうに自分の父親を呼ぶことはない。

それでいいのだと理性が言う。零次には家庭がある。それを揺るがすようなことはダメだ、と。
だが、その一方でずっと抑え込んでいた衝動が爆発しそうになっている。

凛だって彼をパパと呼ぶ資格がある。彼に娘として愛される資格があるのだ、と。


指先で涙を拭って、鈴子は一つ大きく息を吐く。
それから自動販売機で紙コップのアイスコーヒーを購入して、立ったままコーヒーを飲み干した。

コーヒーの苦味と氷の冷たさで頭が冴えていく。

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