ライム〜あの日の先へ
だが、抱きしめる凛の苦しげな咳に思考が吹き飛んだ。
今、考えるべきは凛のこと。過去に囚われている時じゃない。

凛を優しく抱きしめ、背中をさする。

「俺も子供の頃喘息だったから、苦しいのわかるよ。こんな天気の日は特に辛いよな。可哀想に」

不意に零次が話しかけてきて、ハッとなる。

鈴子にも鈴子の両親にもアレルギー体質の者はいない。もしかしたら、父親の体質に似たのかもしれないと周囲に言われるたびに、そんなわけないと打ち消してきた。
彼からアレルギーの話なんて聞いたことがなかった。
だから、凛の喘息は遺伝的なものではなく、環境的な要因があると思っていた。


それが、こんな些細な会話で確信に変わる。


凛の喘息は遺伝的な要因があったのだ、と。



「もうすぐ病院です。連絡しておいたからスタッフが準備して待っていますから。
リンちゃん、すぐに楽になるからね、もう少し頑張って」

ハルトの母の言葉に、凛は大きく首を横に振った。

「びょういん、やだ。おいしゃさん、こわい。おくすり、きらい。ママのばか、きらい」

病院が近づくにつれ、病院も医者も薬も嫌だと凛がぐずりはじめる。


「怖くない。ママはずっと一緒にいるから。病気になんて負けないで。凛、大好きだよ」

優しく包み込むように凛を抱きしめながら、鈴子は思いを込めてそういった。


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