ライム〜あの日の先へ
凛の病室の前で鈴子がうつむいて立っていた。
肩で息をしている。中に入ろうとせず、どうも様子がおかしい。
「なんだ、鈴子。もっとゆっくりしてきてよかったのに。ちゃんとご飯たべてきたか?」
「……おにい。ごめん」
蚊の鳴くような小さな声でつぶやいた鈴子が、泣いていることに気づく。
「大切な親友にあんなこと言わせてごめん」
どうやら、先ほどの零次との会話を聞いていたようだ。
「なんだよ、聞いてたのか。
あいつのせいで泣くのはこれで終わりだぞ。
俺のことは気にするな。大丈夫。鈴子も知ってるだろう、零次のことはちゃんと応援してるから。
さ、涙ふいて。凛の前では泣くなよ」
ーーちょっと思い出のかけらにふれただけ。
懐かしさは罪だ。時間が全てを変えてしまっていることを忘れさせてしまう。
辛くても俺たちは今を生きていくしかないのに。
一成はハンカチで涙を拭う鈴子の頭を、そっと優しくなでた……