ライム〜あの日の先へ



車に打ち付ける雨音と、ワイパーがフロントガラスをなぞる音がテンポ良く聞こえる。

聞きたいことも話したいこともたくさんあった。
だが何から話をしたらいいのかわからない。話し出すきっかけすらつかめず、一成はただ黙っていた。

「思っていたより道路が空いているから早めに着きそうだ」

ハンドルを握る零次が沈黙を破って言葉を発したのは、車が発進してから随分経ってからだった。
一成は、あぁ、とだけ言って再び車内は沈黙の空間となる。

そんな一成に、零次は小さく自嘲的な笑みを浮かべながら言った。

「大丈夫、鈴子にとって俺はとっくに過去の思い出の人間なんだよな。いまさらどうかしようなんて思ってやしない。
鈴子は今、幸せなんだろ?」

以前凛の入院した病院で釘をさしたことを持ち出され、一成は唇をぎゅっと閉ざした。
あの時は零次が一条琴羽と結婚していると思っていた。
零次が結婚していなかったという事実の前で、鈴子の幸せを問えば、それはどう答えるべきなのだろう。

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