ライム〜あの日の先へ
さっきのは、夢だ。零次のアパートでたった一週間恋人としてすごした時の夢。
あの時、雨の中車でファーマーズマーケットに行って、たくさんのライムを買い込んだ。二人でいられれば、雨だって人混みだって楽しかった。

どうしてそんな夢を見ていたんだろう。

鈴子が寄りかかっていた壁の上には小さな窓があった。その窓に雨が打ち付けている。雨音が遠い記憶を連れてきたのかもしれない。

何度かまばたきをして改めて見ると、水上の腕の中でハルトが眠っていた。その水上の足元。水上が置いてくれたのだろう、椅子の上に置いてあった防災頭巾を兼ねた子供用座布団を床に敷いて、凛は丸くなって眠っていた。体にはピンクのカッパが毛布代わりにかけてある。

その凛のかたわら。
凛の顔をまじまじと見つめる姿に、ドキッとした。

「零次くん……?」

零次には鈴子の声が届かないのか、ただ、凛の顔をじっと見ている。

「かわいいですよね、りんちゃんの寝顔。前にハルトの誕生日会で飲み過ぎて寝てしまった五嶋くんの寝顔を思い出しましたよ」

水上の一言に、一成も鈴子もどきりとして息をのんだ。
鈴子がシングルマザーだとか、かつて零次と恋人関係だったとか、そんなことを水上が知っているとは思えない。
彼はただ、感じたままに述べただけ。

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