ライム〜あの日の先へ
鈴子の意識が一気に覚醒する。
何と言ってこの場をしのぐか。焦るあまり言葉が何も浮かばない。

「……抱っこしてもいいかな」

零次は凛から目を離すことなく許可を求めた。
一成は鈴子に目をやる。鈴子は首を縦に振ることしか出来なかった。

「そっと首の下から肩と膝の下に腕を入れて。寝ているから重いぞ。13キロあるからな」

一成に手伝ってもらいながら、零次はたどたどしく凛を抱っこした。


その初めてのぬくもりが、重さが、何より自分にそっくりな寝顔が、零次に答えを導く。


「Ring a bell」


零次の唇からこぼれた英語に、鈴子の息は止まりそうになった。

『知ってる?
ring a bellって思い出させるとか、心当たりがあるって意味なの。
この鈴が鳴ったら私のことを思い出してくれたらうれしい』

最後に別れたあの時そう言って鈴を渡した。
あの瞬間がフラッシュバックする。

「この子は俺の子だね、鈴子。
どうして気づかなかったんだろう、心当たりなんて考える必要もないっていうのに」

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