ライム〜あの日の先へ

過去の悪夢


「今日はリン、やけにごきげんじゃないか?」
「きょうはねぇ、よるごはんにロスモスのハンバーグたべるんだぁ」
「お、ロスモスいいね。俺も好き」

一日中ニコニコとしていた凛に、マイケルが話しかける。
その会話を聞いていて、鈴子は複雑な気持ちだった。

ーー零次くんに会いたいわけじゃないのね。

これを知ったら零次はショックを受けるかもしれない。
零次の落ち込んだ顔を思い浮かべて鈴子は思わず苦笑いしてしまう。

父親としてあれもこれもとしようとしてくれるがどれも空振り。空白の時間を早く埋めたいと焦っているようだが、凛は突然現れた零次との距離感に戸惑いを感じている。

凛は大人の男性に免疫がない。病院でも男の医師や看護師だと身構えてしまうくらいだ。
だからその戸惑いも無理はない。なぜこんなに自分を特別構ってくれるのかわからないのだ。

その戸惑いは鈴子も同じだ。
零次は毎夜、電話をしてもいいか尋ねるメッセージを送ってくれる。凛が寝静まったあと、わずか数分だけ交わす会話は他愛もないことだ。今日は何を食べたとか、凛に送ったプレゼントの反応はどうだったとか。

耳元で聞こえる機械から流れる零次の声に寂しさを感じてしまう。

彼は本当に戻ってきてくれたのだろうか。
目が覚めたら消えてしまう都合のいい夢なら数え切れないほど見てきた。その夢の続きではないのだと、もっと実感がほしかった。

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