ライム〜あの日の先へ
五嶋商事の本社ビルの最上階、社長室。
ここから見える夜景を、零次は好きになれなかった。
父である前社長の背中越しに見ていたことを思い出すからだ。
出来の悪いヤツだと罵詈雑言を浴びながら、冷たく光る地上の明かりをぼんやり見ていた。
無機質な青白いLEDの光ばかりで、心まで冷え切るような、絶望感しか感じない夜景。
その夜景が、これほどイキイキと希望に満ちて見えるなんて、あの頃の自分に教えてやりたい。
「社長室からの夜景を一緒に見ようって約束、覚えてる?」
零次が窓の外を見つめながら物思いにふけっていると、鈴子がそっと傍らに来てくれた。
「覚えてる。こんな日が来るなんて夢みたいだ。頑張ってきてよかった。鈴子、ありがとう」
「もう、離さないで。これからは苦労も幸せも分け合おう。たとえ何があっても、私は絶対にあなたの味方。大好きだよ、零次くん」
零次はふと凛を見る。凛は一成と一緒にお菓子をテーブルの上に広げて楽しそうにしている。
そんな零次の視線に気づき、一成は小さく笑った。
「凛、隣が俺の仕事の部屋なんだけど、そっちにもっとお菓子があるんだ。一緒に取りに行かないか?ぶどうのグミがあるよ」
「ほんと?いくいく!ママ、いっせいくんのおへやにいってくる!!」
一成ははしゃぐ凛を抱っこしながら、零次に歩み寄りその耳元でつぶやいた。
「五分だけだぞ、義弟よ」