ライム〜あの日の先へ
「鈴子、なんか元気ないな。どうした?」

音読を済ませた鈴子に一成が問いかけた。
一成は鈴子の心の機微に敏い。

「うん……」

鈴子は手にしていた本の表紙を見つめながら、顔を曇らせている。

言いたいけど、言えない。

そんな鈴子の様子に、零次が優しく背中をおしてくれた。

「言ってごらん、鈴子ちゃん。なにか困ったこと?」

「……あのね、6月1日の土曜日に運動会があるの。これ、今日もらったお手紙」

運動会のお知らせと書かれたプリントを受け取った一成と零次は、ハッとなってお互いに顔を見合わせた。


零次は母と二人暮らしだ。家を空けがちな母は子供の学校の行事に顔を出したことはない。
一成も父が学校の行事に顔を出したことがない。
親と一緒にお弁当を食べるのが通例だった小学校の運動会。コンビニのおにぎりを自分たちで用意してきて二人で一緒に食べた。
寂しくて、虚しくて。家庭環境を呪った運動会だった。


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