ライム〜あの日の先へ

小学校のグラウンドには、保護者が大勢来ていた。子供達は親の姿を探して、大きく手を振って喜んでいたり恥ずかしそうにしている。
そんな同級生の中で、いつものように鈴子は大人しくしていた。
保護者会や面談のときと同じ。鈴子の父親は学校に来たりしない。入学式でさえ、来なかった人だ。

ーーそうっと息をして、ただ言われたことだけをして、時間がすぎるのを待てばいい。
うらやましくなんてない。ないものを欲しがったらダメ。
わたしは、みんなと違う。わたしにはお母さんがいないし、お父さんも構ってくれない。
でもわたしには、おにいがいる。零次くんもいる。
だから、大丈夫。


大人たちの目が鈴子を捉える時は、好奇を抱く時だ。

ーーあぁ、あの子が、あの。

哀れみ、嫌悪、そういったドス黒い感情を絡めた好奇の視線は、どんな時も鈴子を突き刺し、痛みを与える。

だから気にしないように視線をかわす。こちらが何もしなければ、すぐに終わる。
皆、自分の子どものことが大事なのだから。
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