ライム〜あの日の先へ
「はい、みんな、しゃがんで」


教師が入場門で生徒にしゃがむように指示をした。
だが。
指示通りにしゃがもうとした鈴子に日菜が倒れかかってきた。日菜は身長こそ同じだが体は鈴子より一回り大きい。そんな体に押しつぶされる形になった。
鈴子はバランスを崩して、倒れ込む。


「おい、どうした、大丈夫か?」

列からはみ出して倒れ込んだ鈴子は、全身砂だらけになった。
何ごとかと教師が駆け寄ってくる。


「日菜ちゃん!大丈夫?ケガはない?」

近くにいた保護者から大きな声がかかる。
日菜の母だ。日菜によく似て大柄な体格で、いつもフリルがたっぷりついた服を着ているので目立つ。あのフリフリでイベントのたびに学校にやってくるから、鈴子も見知っていた。

「わたしは大丈夫。
ごめんね、鈴子ちゃん、わたし、よろけちゃって」

日菜がわざとらしく謝ってくる。彼女は鈴子をクッションにしたので汚れ一つついていない。

「日菜ちゃん、めまいかしら、今日暑いもの。先生、日菜ちゃん大丈夫でしょうか」

日菜の母には砂だらけになって、膝をすりむいた鈴子は見えていないらしい。今にも生徒以外立ち入り禁止になっているエリアに踏み込んできそうな勢いだ。
教師も日菜の母の勢いに押されて、ケガをした鈴子より先に日菜に駆け寄った。

「具合悪い?」
「ううん、ちょっとバランス崩しただけ」

「日菜ちゃん、頑張り屋ですぐ我慢しちゃう子なんです!絶対無理してます。顔色わるくなっていません?」

日菜の母は、立ち入り禁止を示すビニールのテープを乗り越えそうなほど体を乗り出して、悲鳴にも似た叫び声をあげた。

ーーお母さんって、あんなに自分の子供を心配するんだなぁ。

鈴子は、胸がチクチクと痛む気がした。擦りむいたひざより、痛い。


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