ライム〜あの日の先へ
「ねぇ、今転んだ子、もしかしたらあの事件の……」
「まぁ、あの子なのね」
鈴子に気づいた保護者たちがざわつき始めた。
鈴子は気にしないように体についた砂を払い、改めて列に戻り、一成と零次を見た。
零次は満面の笑みで鈴子に手を振り、その傍らで一成がピースサインをしている。
二人の姿に鈴子はホッとした。
ーー私にはおにいと零次くんがいる。大丈夫。
「一成、ゴールの方に行こうぜ。ハイハイちょっと失礼しますよー」
「すみません、通らせていただきます」
零次は鈴子を見てコソコソと話している保護者の真ん中をわざとらしくかき分ける。零次とともに目の前を一成が通れば、鈴子から一成へと興味が移る。
「あの子がお兄ちゃんね」
「すごく優秀らしいわよ」
零次が迫力満点に切り込んでいって、一成が理路整然と口で相手をやりこめる。二人のいつもの戦い方だ。
「今の日菜ちゃん、絶対わざとだったよね。鈴子ちゃん大丈夫?」
「鈴子ちゃんのお兄ちゃんたち、かっこいいね」
「ありがとう。わたしは大丈夫」
友達が口々に兄たちを褒めてくれるのが何よりうれしい。兄たちがいてくれれば、無敵になれる気がしていた。