ライム〜あの日の先へ
移動しながら廊下から覗くと、凛が楽しそうに遊んでいる姿が見えた。こんなふうに娘の様子も確認できる職場で本当に良かったと思う。


「スズコ、今日、一緒にディナーはどうだい?」
「えみりさん、今つわりがひどいんじゃない?」
「それがさ、急にいろいろ食べ始めたんだ。つわりって急に終わるものなのかい?今日もヤキニクが食べたいって言ってる。ヤキニクならリンも大好物だろ?」

同僚であるマイケルの妻えみりは現在妊娠中だ。えみりはもともと、このプリスクールの講師をしていた。彼女が妊娠をきっかけにプリスクールを辞めることになり、その後任として鈴子が入ったのだ。

「ありがと。でも今月お財布厳しいからやめとく。
赤ちゃん生まれるまでよ?二人の時間を楽しんできて」

彫りの深く整った顔のマイケルは、プリスクール内でも大人気だ。まるで映画俳優のようだと保護者に噂されている。そんな彼とペアを組んでいる鈴子は同僚にも羨ましがられていた。


だが、どれほどカッコよくても、たとえ妻帯者じゃなくても、鈴子は男性に興味が持てない。

ーー好きになったのは、人生でたった一人。きっとこれからも、彼を超えるほどの人には巡り会えない。

「さてと、お迎えの時間になるわ。行きましょ、マイケル」

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