ライム〜あの日の先へ
零次が鈴子の前にしゃがみこんで背中を見せる。どうやらおんぶしてくれるようだ。

「おんぶしてくれるの?わたし、重いよ?」
「平気平気。俺、引っ越し屋のバイトもしてたしチカラはあるよ。遠慮しないで。それっと」

軽々と鈴子を背負って、零次が歩き出す。
小さな頃からよくこの背中に守ってもらった。鈴子にとって零次の背中は安心と信頼の象徴のようなものだった。

「おんぶなんて小学生以来かも」
「鈴子ちゃんも、もう二十歳だもんな。モテるだろ。かわいいし、男たちが狙ってくるのも当然だ」
「でも、あんなのと会っちゃうと恋愛なんて幻滅しちゃうよ。
今日はアイツのリクエストで天文台に行ったのに、天気悪くて景色がいまいちだったの。しかもなぜか帰りのバスが来なくて。アイツはずっとイライラしてるし、スキあらばベタベタ触ってくるし、最悪だった。あー無駄な時間過ごした。
私の理想は何事もスマートにこなして、デートの間は私にお金の心配させず、私の気持ちを最優先にして関係を深めてくれるような人なのに」
「それは一成みたいな男ってことだな。なかなか理想が高いな。まぁ、しょうがないよな、学生だとなかなか周りにそういう大人の男はいないだろ」
「まぁね。でも天文台は残念だったなぁ。今の時期、クリスマスの装飾できれいな街が一望できるはずなんだよね。前に写真で見たんだけど、すごく良かった」
「なら、今度、三人でいこう。俺も見たい。約束な」



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