ライム〜あの日の先へ
「……ありがとう、一成。ありがとう、鈴子ちゃん」

鈴子の大好きは常套句だ。お菓子を食べては、これ大好き。楽しい映画を見れば、これ大好き。気に入ったものはなんでも大好きを連発する。
だから、この大好きも、恋愛としての大好きだとは、この場の誰もが思っていなかった。
言った当の本人も。

だが。

ただ一人、零次だけが、嬉しさを噛み締めながら微笑んだ。

ずっと孤軍奮闘してきた。味方なんてほしくなかったし、零次を助けようとしてくれる人は必ず見返りを求めてくる。だから、信じられるのは自分だけだと思っていた。
それが、一成と鈴子は零次になんの見返りも求めない。ロサンゼルスでは先輩で仕事もよく知っている一成は、零次の成長を願い惜しみもなく自分のスキルを享受し、応援してくれる。
そして鈴子は、勝手に去った零次を再び受け入れ、大好きだといってくれる。

これが、すさんだ零次の心をどれほど癒やし、励ましたか。

ロサンゼルスに来てよかった。そう思わずにいられない。
< 68 / 231 >

この作品をシェア

pagetop