ライム〜あの日の先へ
一緒に行きたい。素直にそういえばいいのに言えなくて、ツンと気取って言ってしまう。


「ありがとう。でも大丈夫。一人でレンタカー借りて自由にまわるよ」

零次には鈴子の気持ちなんて、お見通しだった。

最後に一緒にデートなんてすれば、きっと盛り上がってしまう。鈴子のことを離したくなくなる。この地に未練が残る。
全ての責任を一身に負い、集中砲火を浴び、多くの人に恨まれて生きていく人生に鈴子を巻き込むわけにはいかない。


「今日はこれで帰る」
「零次。俺は君の友人だ。たとえ君がどんな立場になろうとも、それは決して変わらない。自分に力がないことがもどかしいよ。できることなら俺も君のそばで力になりたかった」
「ありがとう、一成。その気持だけで十分だ。何よりありがたい言葉だ」

零次が玄関へと向かう。
鈴子はその背中を追うように、一成と玄関まで見送った。

「じゃあな」

振り返りもせず、零次の背中は玄関のドアの向こうに消えた。


ーーいいの?これで、本当にいいの?

鈴子は自分の心に問いかける。

ーー淋しい。

彼の背中が鈴子を拒絶していた。鈴子にとって零次の背中は安心と信頼の象徴なのに、冷たい拒絶が淋しくて苦しい。

「鈴子!?」
「おにい、ごめん」

もう、何も考えられなかった。驚く一成の声を背に、鈴子は玄関を飛び出していた。


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