ライム〜あの日の先へ
「零次くん!!」

遠ざかる零次の背中に声をかける。それから懸命に走って衝動的にその背中に抱きついた。

「鈴子ちゃん!?」

「一緒にいたいよ、零次くん。
あとたった一週間なら、その間だけ恋人になって。
日本に零次くんが好きな人がいるのは知ってる。でもね、私も零次くんのことが好きなの。大好きなの。
日本に帰ったら忘れちゃって構わないから。お願い、一週間だけ思い出を作らせて。一緒にいさせて」

鈴子は必死に訴える。だが、零次は振り返ってもくれない。背中で鈴子を拒絶したままだ。

「そんな刹那的な恋愛なんて、傷つくだけだ」
「このままのほうがもっと傷つく。後悔だけが残る。大丈夫、この一週間でわたしの想いは昇天させるから。
最後のわがまま、聞いて。お願い、零次くん」
「ダメだ。鈴子ちゃん、君を傷つけるのが怖い。俺なんかにもう関わらないほうがいい。俺は一人でいいんだ」

悲壮なまでの零次の決心は揺るがない。


「傷つきなんかしないわ。このまま零次くんとサヨナラするほうがよっぽど苦しい。
怖がらないで。私はずっと一緒にいるから。たとえ何があっても、私は絶対にあなたの味方だよ。負けないで。大好きだよ」

鈴子は必死に訴えた。そして夢中で零次の前に移動して彼の唇に自分の唇を当てた。

軽く触れるだけのキス。
零次の唇はひどく冷たく、そして乾いていた。きっと、日本に帰ることが決まってからずっと緊張して苦しんでいたのだろう。
そう思うと愛しさがより募る。
何も言わない零次の体をぎゅっと抱きしめた。

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