ライム〜あの日の先へ
「終わりは、わかってるから。零次くんは優しいから、私の想いに応えてくれただけ」

「零次は優しさだけで鈴子に応えてくれるような、そんなヤツじゃない。今はちゃんと鈴子のことを見てくれているはず。零次が日本に帰っても、付き合いを続けていけるんじゃないか?」

「ううん。そんな期待はしない。彼は五嶋商事を背負っていく人よ。私とは住む世界が違う。
それに彼の心の奥底にはいつでも一条琴羽さんがいる。生まれながらの御令嬢。彼にぴったりのお相手よ。
だから、ちゃんとこの一週間で私の想いは昇天させて終わりにする。きれいな思い出だけ残すの」

鈴子の決意に一成は少し安心した。恋ゆえに周りが見えなくなって、このまま零次についていくと言い出すのではないかと心配していたのだ。たとえ零次がそれを許したとしても、零次の周囲は鈴子を認めないだろう。平社員の妹に過ぎない鈴子では零次の相手にはふさわしくない、と。
それに兄としては日本で零次を待ち受ける苦難の道に鈴子を歩かせたくはない。

だが、鈴子はきちんとわかっている。別れは辛いだろうがすぐに振り切って前を向けるだろう。芯の強い子だ。

「正直、零次とはお似合いだと思うよ。あいつが吉田零次のままだったらよかったのに。ま、そんなこと言っても仕方ないんだけど。
後悔しないように、零次に思いっきり甘えてこい。イイ女逃したって後悔させてやれ」

「……うん。おにい、ありがと」

兄の応援が胸に染みる。
これで気兼ねなく、一生に一度の最高の一週間を過ごすことができそうだった。



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