ライム〜あの日の先へ
零次は今にも泣き出しそうな鈴子を思いをこめてギュッと抱きしめ、その頬にそっと口づけをした。

最後まで零次は一度も『好き』と言葉にしてくれなかった。だが、その優しい口づけに底しれぬ愛情を感じて、鈴子は一層辛くなる。

「零次くんの、バカ。期待しちゃうじゃん」
「何を?」
「零次くんが、一条さんじゃなくて私を選んでくれるかもとか。
もう、やめて。辛くなるから、夢見させないで。きれいに終わりにしたいの」

鈴子は両腕に力をこめて零次の体を離した。
共有していたぬくもりがあっという間に冷めていく。

自分の心の熱もこんなふうに冷めてほしい。

「……ごめん。でも、これだけは覚えていて。
俺、この一週間、本当に楽しかった。この時間がずっと続けばいいって本気で思っていたって」

「……私もおんなじ。大好きな人と一緒にいられて本当に幸せだったよ」

零次の背中がチェックインカウンターへと向かっていく。
小さな頃からあの背中が守ってくれた。幼い鈴子にとって零次の背中は安心と信頼の象徴だった。


でも今は切ないほどに愛しくて、遠い背中だった。



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