社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「危ない危ない。
 カッターの刃を引っ込めようとして、逆に出しちゃってました。

 たまに、うっかり全部出して、はあーっ! ってなりますよね。
 危うく、犯罪者になるところだった! って」

 千景は、こちらを見て照れ笑いをする。

 ……何故、カッターを全部出したら犯罪者になるのかわからないし。

 刃が全部出たくらいで、犯罪を犯してしまうのなら。
 元から犯罪者になる素質があったのでは、と思ってしまう。

 そこそこ働いてくれる新人だが、俺にはこいつが理解できない、と武者小路は思っていた。

 戸塚になら、こいつの今の言動も理解できるんだろうかな……と将臣に言ったら、

 いやいや、と手を振りそうなことを思う。

「それにしても、何故、社長はいきなり私をハムスター呼ばわりしたんでしょうね」

 しょりしょりと緑の軸の鉛筆を削りながら、千景は言う。

 いや、そのなんか、ちょこまかした謎の動きのせいなんじゃないのか……、と思う武者小路に向かい、千景は言った。

「私の中では、ハムスターは武者小路さんなんですが」

 いや、何故だ……。
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