社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 あ、といきなり千景が、よく(とが)らせた、全出しのカッターの刃より危険そうな鉛筆を見て言う。

「そういえば、小学生の頃、よく歯形のついた鉛筆とか見かけませんでした?

 男子って鉛筆(かじ)るのかな~って思ってたんですけど。

 私の家の引き出しにもあったんですよね、歯形のついた鉛筆。

 誰が齧ってたんですかね?」

 ……お前だろう、と武者小路は思う。

 武者小路の頭の中では、小さなハムスター千景がカジカジと鉛筆を齧っていた。



< 111 / 477 >

この作品をシェア

pagetop