社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「いつもタクシー代出してもらってるだけで申し訳な……」

 あ、そうだ、と千景は手を叩いた。

「私がおごりますよ」

「やめろ。
 新入社員の安月給でおごってくれるとか。

 喉を通りそうにない」

「まだ月給もらってないです。
 なので、学生時代のバイト代の残りです」

 余計、喉通らないだろーっと叫ばれた。

 そこで千景は少し考える。

「そういえば、今日、お母様のおうちに帰られるんですか?」

「いや、今日は益岡(ますおか)さんがいるから」

 どうした? と問われる。

「いえ、あちらに帰られるなら、ちょっぴり、社長のお母様の猫屋敷の猫ちゃんたちを拝見したかったので」

「……なんで猫屋敷だ。
 お前の頭の中、猫であふれかえってそうだが、そんなにはいないぞ?」

 五匹だ、と言われる。

「まあ、見たかったら来い」

「あ、外からでいいですから」

「訳のわからん遠慮はするな。
 その代わり、寿司つきあえよ」
と不思議な脅しにあう。
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