社長っ、このタクシーは譲れませんっ!


 北側の、森みたいな裏庭に面したリビングでは――

 いやなんで、一軒の家に、リビングが二個あるんだ……、
と思いながらも眺めたリビングでは。

 火のついていない暖炉の前のふかふかのクッションの上に、これまた、ふかふかのグレーの猫が寝ていた。


「この家はパラダイスですかっ」

 千景は将臣に連れられ、スタンプラリーのように猫を探しながら、屋敷を巡る。

「あと二匹は何処行ったかな」
と将臣が呟いたとき、広い廊下の向こうから、家政婦の益岡が呼びかけてきた。

「お茶が入りました。
 どちらにご用意致しましょうか」
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