社長っ、このタクシーは譲れませんっ！
　千景の母くらいの年の益岡は愛想の良い女性だった。

　屋敷の雰囲気からいってメイド服でも着て出て来そうな感じだが。

　そこはさすがに、普通のシンプルな服にシンプルなエプロンだった。

　メイドがずらっと並んでお出迎えとかしそうな屋敷ではあるのだが。

　将臣の母は遊び歩いて、ほとんど住んでいないようだし、使用人も普段は置いていないのだろう。

　……っていうか、母親の家ってなんなんだ。

　きっと父親の家とか、実家とか別にあるんだろうな、と千景は思う。

「じゃあ、南のリビングにお願いします。
　フィンとシュウがいたら、連れてきてください。
　まだ会わせていないので」
と将臣は言う。

　益岡は微笑み、厨房に向かったようだった。

　将臣は家政婦さんに対しても、物腰柔らかく丁寧だった。

　使用人には、上から物を言うおぼっちゃんとかもいるだろうにな……。

　そういうところは好感持てるな、と思ってしまう。

「フィンとシュウって、名前、可愛いですね」

　マフィンのフィンに、シュークリームのシュウ……と千景が勝手な妄想をしていると、将臣が言う。
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