社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 千景は将臣に言われて、ふかふかのファーの置かれたソファに腰を下ろしたが。

 あの白猫はもういなかった。

 なんだ、残念。

 でも、猫って気まぐれで、ふいっといなくなったりするのが、可愛いとこでもあるしな~、と思いながら、益岡の淹れてくれた紅茶をいただく。

 いい香り。

 私が淹れると、濃すぎたり、薄すぎたりするもんな。

 っていうか、最近、ティーバッグばかりだし、と千景は苦笑いした。

「ご夕食はどうなさいますか?」

 いつもの店からとりましょうか? と益岡が将臣に訊く。

 近所のレストランが運んできてくれたりするらしい。

「いや、帰るよ。
 今日は猫見に来ただけだから」

 もう時間ですかっ。
 私、まだ一匹も触ってないんですけどっ。

 っていうか、全部見てないんですけどっ、と千景は残念に思う。
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