社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「右がシュウ、左がミリだ」
大きなガラス窓の前に立つ二匹を将臣が紹介する。
「そうなんですか。
いや、私、瞬間的に右と左がわからないんですけどね。
どっちかがシュウで、どっちかがミリなんですね」
と千景は言った。
「……右と左がわからないってなんだ」
「結構、多いらしいですよ、左右がわからない人。
もう手に右とか左とか書こうかなって思ってるんですけどね」
「……東にいるのがミリ、西にいるのがシュウだ」
「すみません。
東西もわかりません。
東西も手に書こうかなと思うんですけどね」
と思わず言って、
「いや、東西は向き変えたら変わるだろうよ……」
と言われてしまう。
後ろを通りかかった益岡が笑っていた。