社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
やばいっ、写仏して寝過ごしたせいで、遅れるっ!
新入社員の嵐山千景は慌ててアパートの前の道に飛び出した。
入社早々、遅刻するわけにはいかないっ。
ヘイ、タクシーッとばかりに千景はちょうど通りかかったタクシーに向かい、手を挙げた。
ところが、
「タクシー!」
と千景の前に誰かが割り込み、手を挙げる。
ええっ!?
と思った瞬間、タクシーが止まった。
「まま、待ってくださいっ。
私が先に手を挙げたんですけどっ」
いつもなら、どうぞどうぞと譲るところだが、まだ遅刻など許されない新入社員。
ここはひとつ、頑張ってみた。
なにせ、先に手を挙げたのは私だしっ、と思ったのだが。
くるりと振り返った男に見覚えがあった。
長身、仕立ての良いスーツ、目鼻立ちのくっきりしたイケメン、と三拍子そろったこの人は……。
「……しゃ、社長、何故ここに」