社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
千景からタクシーを奪おうとしたのは、社長の戸塚将臣だった。
将臣はマジマジと千景を見、
「……そういえば、何処かで見た顔だな」
ああ、新入社員か、と呟く。
「すまないが、俺は急いでるんだ」
とタクシーに乗ろうとする将臣の腕を千景は、むんずとつかんだ。
「そうはいきません、社長。
私も急いでるんですっ。
遅刻しそうなんでっ」
「お前のことは上手く言っておいてやるから」
いいから譲れっ、と言われたが、千景は手を離さず、訴える。
「なに言ってるんですかっ。
『あいつ、遅刻しかけてタクシー乗ろうとしてたけど。
俺がタクシー奪ったんで遅れるぞ』
って、社長から上司に言われた時点で、私が遅刻しかけたことが上司にバレバレですよねっ」
「お前、俺に叱られるより、上司に叱られる方が怖いのかっ」
「当たり前ですよっ」
と千景は叫んだ。
「社長なんて、滅多にお会いしないし。
こんな末端の者のことなど、あなたがたは気にもかけないではないですかっ」
と千景は叫んだ。
新入社員なのに遅刻しかけて、テンパっていたのかもしれない……。
「遅刻だけはよくないわよ」
研修のとき、やさしい人事のおばさまに、ふふふふ、と微笑んで釘を刺されたせいもあるかもしれない。
ともかく、千景は、なんぴとたりとも、このタクシーは譲りませんっ。
それが例え社長であろうともっ、という構えだった。
将臣はマジマジと千景を見、
「……そういえば、何処かで見た顔だな」
ああ、新入社員か、と呟く。
「すまないが、俺は急いでるんだ」
とタクシーに乗ろうとする将臣の腕を千景は、むんずとつかんだ。
「そうはいきません、社長。
私も急いでるんですっ。
遅刻しそうなんでっ」
「お前のことは上手く言っておいてやるから」
いいから譲れっ、と言われたが、千景は手を離さず、訴える。
「なに言ってるんですかっ。
『あいつ、遅刻しかけてタクシー乗ろうとしてたけど。
俺がタクシー奪ったんで遅れるぞ』
って、社長から上司に言われた時点で、私が遅刻しかけたことが上司にバレバレですよねっ」
「お前、俺に叱られるより、上司に叱られる方が怖いのかっ」
「当たり前ですよっ」
と千景は叫んだ。
「社長なんて、滅多にお会いしないし。
こんな末端の者のことなど、あなたがたは気にもかけないではないですかっ」
と千景は叫んだ。
新入社員なのに遅刻しかけて、テンパっていたのかもしれない……。
「遅刻だけはよくないわよ」
研修のとき、やさしい人事のおばさまに、ふふふふ、と微笑んで釘を刺されたせいもあるかもしれない。
ともかく、千景は、なんぴとたりとも、このタクシーは譲りませんっ。
それが例え社長であろうともっ、という構えだった。