社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 いつも俺に敬語なんて使わないだろ、と言われ、まあもういいか、と諦める。

 ひとつ溜息をついてから、将臣に訊いた。

「お前は今日も仕事か?」

「ああ、今、終わって、なにか食べて帰ろうと思ってたところだ」

「嵐山と待ち合わせたりとかしてないのか?」

 そう訊くと、いや……、と将臣は渋い顔をする。

 なんでもできて、いつでもみんなの代表で、他校の女子にもモテモテ。

 というのが、クラスメイトだが、そう親しくもなかった戸塚将臣の印象だったのだが。

 なんだ、こいつ、意外に恋愛方面は駄目なんだな、と気づく。

 嵐山ごときを相手に、なんにも進展してなさそうだ。

 すると、学生時代にはありえなかったことだが、ちょっと将臣に親近感が湧いてきた。
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