社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「もしかして、暇か? 戸塚。
 俺も飯食いに行くとこだったんだが。

 一緒にどうだ。
 おごってやろうか」

「え、いや、いいよ」

 あ、社長に、飯食いに行くか? おごってやろうかはなかったな、と思ったが、将臣は少し照れたように笑い、

「そういや、お前と二人で行ったことなかったな。
 おごってくれなくていいから、行こう」
と言ってきた。

 こいつ、可愛いとこあるじゃないか。

 恋愛とは違う意味できゅんと来た。

 なんだかんだでイケメンはずるいなと思う。

 こいつに、こんな顔されたら、女はイチコロだろう。

 ……まあ、嵐山はイチコロになってはいないようなんだが。

 そういえば、最近、恋愛で、きゅんとしたことなんてなかったな。

 そもそも、あの半地下にこもってから、まともな女とあまり関わっていないというか。

 まともでない女その一、嵐山千景。

 その二、坂巻トモエか。
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