社長っ、このタクシーは譲れませんっ!



 二人は夜道を歩いて、ヘブンズハウスへと向かっていた。

「ヘブンズハウス、ほんとに、いいアパートなんですよ~」

 気持ちよく酔った千景は、心地よい夜風に吹かれて笑う。

「そうかそうか」
と横で将臣が頷いていた。

 たぶん、社長より私の方がお酒、強いんだが。

 同じだけ呑んだはずなのに、今日は社長の方が何故か酔っていないようだ、と思いながら千景は言った。

「ヘブンズハウス、周りの環境もいいし。
 住んでる人たちもご近所さんたちも大家さんたちも、みんないい人なんですよ」

「そうかそうか」
と将臣は微笑んで頷く。

 ……なんだか、ちょっと優しげですね。

 そういう顔をされると、どきりとしてしまうんですが。

 いや、少し……ほんの少しだけなんですが。

 千景は将臣から視線をそらして言った。
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