社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「えーと……。
 ……だから、その、もうずっとここに住んで、出たくない感じなんですよ」

 おや? さっきから、機械の音声かというくらい定期的に聞こえていた、そうかそうかが聞こえてこないな、
と千景が見上げると、さっきまで機嫌がよかった将臣のテンションが急激に下がっていた。

 なんなんだ……と千景が思ったとき、なにかが足にすりすりしてきた。

 三毛猫が千景の周りをぐるぐる回りながら、身体をこすりつけてきていたのだ。

「与太郎~。
 ただいま~」
と千景はしゃがんで、与太郎を抱き上げる。

 千景は猫好きな将臣にも与太郎を紹介した。

「この子、可愛いでしょう?」

 いやちょっとヤクザ者のような顔をしているのだが。

 この可愛さ、猫好きならわかってもらえるに違いない、と思い、千景は言った。

「なんと三毛のオスなんですよ。
 野良猫なのか、何処かの飼い猫なのか、わからないんですけど」

「……いや、それはたぶん、うちの飼い猫だな」

 そう将臣は言った。
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