社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「えっ?
 最後の一匹の他にも猫がいたんですか?」

 思わずそう言ってしまった千景に、……いや、なんでだ、と将臣が言う。

「だって、最後の一匹はフィンなんですよね?
 この子は、どう見ても、与太郎ですよ」

「……与太郎に失礼だろうが」
と言う将臣も、与太郎と呼んでしまっていた。

 この顔は、確実に、与太郎な感じだった。

「私の中のフィンは、あのグレーのふわふわちゃんみたいな感じだったんですが」

「単に、これで最後と思って名付けたから、フィンなだけだ」
と言いながら、千景の手から将臣は与太郎を抱き上げる。

 与太郎は、すんなり将臣の腕に抱かれ、ぐるぐる言ってはいるのだが。

 誰にでもこんな感じの猫なので、そのことが猫屋敷の猫であるという証明にはならないな。

 だけどまあ、社長がわざわざそんな嘘つく必要もないんだけど、と千景が思ったとき、将臣が言った。

「そう。
 お前は、ついに見つけてしまったんだ。

 俺の嫁になる呪いがかかった最後の一匹を――」

 なんか……社長の顔が綺麗だし。

 闇夜で月を背にしているし。

 社長の嫁になったら、どんな恐ろしいことが起こるんですかって雰囲気なんですけどっ、と怯える千景は将臣に言う。
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