社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「おかしなものを送ってこないようにですっ」

「俺と結婚するのが嫌なのかっ」

「与太郎と友だちだからと結婚させられるのも。
 ちょうどいいからと結婚させられるのも嫌ですっ」

「ちょうどいいから結婚したいなんて誰が言ったんだっ」

「社長と早百合さんですよっ」

「……そうだったな」

 忘れてたんですか、と思う千景に、将臣は言う。

「心配するな。
 ちょうど、ちょうどいいからだけではなくなったところだ」

「えっ?」

「ちょうどいいうえに、なんだかお前を好きでもないこともないこともない感じになってきた」

 ……それは一体、どんな感じなんですか。

 いっそ、はっきり言ってみてください、と千景は思っていたが、将臣は特に言いそうにはなかった。

 代わりに、
「もう諦めろ、千景」
と崖の上で犯人に自首を促す刑事のように言い出した。

 あの、社長……。

 たぶんなんですが。

 そこは脅すのではなく、愛を語る場面では……?

 まあ、別に私のことなどお好きではないのでしょうが、と思いながら、千景はジリジリと魔王だったり、刑事だったりする、将臣から後退していく。
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