社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「まあ、とりあえず、部屋に上げろ」

「い、嫌です」

「何故だ。
 お前が俺を招いたんだろ?

 部屋の中の仏さんを見せたいんじゃなかったのか」

 追い詰める刑事、将臣がそんなことを言ってくるので、仏さん、と言われると、家の中に自分が必死に隠している死体でもあるような気がしてくる。

 だがまあ、入って欲しくなくなったのは、それでではない。

「嫌です」

 千景はもう一度断った。

「何故だ」
と将臣が詰め寄る。

「ただの社長なら入っていただいてもいいのですが。
 結婚相手となると身構えてしまうので、駄目です。

 今まで社長はまったくそういう対象ではなかったので、まあいいかと思ってたんですが」

「まったくそういう対象に入ってないってどういうことだーっ」
と将臣はわめいていたが。

 いや、将臣が男性として魅力的でない、という意味ではない。
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